岡山地方裁判所 昭和26年(ワ)225号 判決
原告 塩見克己 外十名
被告 株式会社松田組
一、主 文
被告会社は別紙目録記載の本件各原告に対しそれぞれ当該原告名下賃金額欄記載の金員およびこれに対する昭和二十六年六月三十日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。
原告等のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを二分しその一を被告会社の負担とし、その余を原告等の負担とする。
この判決は原告A、同B、同C、同J、同Kが各金四千円その余の原告等が各金六千円の担保を供するときは各原告等勝訴の部分に限りそれぞれ仮に執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告会社は別紙目録記載の本件各原告に対しそれぞれ当該原告名下の合計金額欄記載の金員およびこれに対する本件訴状が被告会社に送達された日の翌日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし、訴訟費用は被告会社の負担とする、との判決ならびに仮執行の宣言を求め、請求の原因として、被告会社は土木建築工事請負ならびに附帯業務を目的とする株式会社であるが国を代表する岡山農地事務局長との間に児島湾干拓建設事業の防潮堤塘腹付工事の完成を目的とする請負契約をなし、昭和二十三年三月一日から翌二十四年五月十八日まで右工事を実施してこれを完成し、かつ、右工事施行のため農林省より借受けていた機械器具の返納を翌十九日より同年六月三十日までかかつてなした。原告等は被告会社の就業規則によつて雇傭せられた被告会社の就業員であつて右工事の施行ならびに右機械器具の返納作業に従事したものであるが、(一)被告会社は昭和二十四年三月一日から同年六月三十日までの間に生じた分のうち別紙目録記載の本件各原告に対する当該原告名下賃金額欄記載の金額に相当する各賃金の支払を怠つている。(二)なお被告会社は昭和二十四年五月十八日原告等に対し労働基準法所定の三十日分以上の平均賃金すなわち予告手当を支払わないで即時解雇する旨の通告をしたので被告会社としては同法第二十条により三十日分の平均賃金を支払う義務がある。その支払額はそれぞれ別紙目録記載の本件各原告に対する当該原告名下の三十日分の平均賃金欄記載の金額に相当するものであるがその支払を怠つている。(三)また右解雇当時被告会社における原告Aの勤続年数は二年給与月額は一万三千円、同Bの勤続年数は三年給与月額は一万二千円、同Cの勤続年数は一年給与月額は一万三千円であるので被告会社はその社員就業規則と退職金規則により退職金として別紙目録記載の右原告等三名に対する当該原告名下退職金額欄記載の退職金をそれぞれ支給すべきであるのにこれを怠つている。よつて被告会社に対し別紙目録記載の本件各原告に対する以上各債務金の合算額たる当該原告名下の合計金額欄記載の金員およびこれに対する本件訴状が被告会社に送達された日の翌日より完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものであるとのべ、被告会社の抗弁事実を否認した。(立証省略)
被告会社訴訟代理人は適式の呼出を受けながら昭和二十六年十一月三十日午後一時の本件口頭弁論期日に出頭しないので当裁判所は右期日に出頭した原告訴訟代理人に弁論を命じたのであるが同代理人が本件準備手続の結果として陳述した被告会社の申立並に事実上の主張の要旨はつぎのとおりである。すなわち原告等の各請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告等主張の請求原因事実中、被告会社が土木建築請負ならびに附帯業務を目的とする株式会社であつて国を代表する岡山農地事務局長との間に原告主張のような請負契約を締結したこと、原告A、同Bの両名が被告会社に雇傭せられていて昭和二十四年五月十八日当時までその従業員であつたこと、被告会社が昭和二十四年五月十八日原告Aに対し労働基準法所定の三十日分以上の平均賃金すなわち予告手当を支払わないで即時解雇する旨通告したことはいづれも認めるが、その余の事実は否認する。原告A、同Bの抗弁として仮に同原告等がその主張のような本訴各債権を有していたとしても同原告等は(一)昭和二十五年一月頃擅に被告会社が岡山農地事務局から受領すべき工事代金のうち十万円を受領費消して被告会社に同額の損害を蒙らしめ、(二)前記被告会社の請負工事につき現場責任者としてその業務の執行上善良なる管理者の注意を怠り会社が二百万円を投じてした同工事を失敗に終らせ当時被告会社に同額の損害を蒙らしめたのであるが被告会社は昭和二十六年五月十八日右原告両名に対しそれぞれ右各損害賠償債権と同原告等主張の本訴各債権とをそれぞれ対当額で相殺する旨意思表示をしたのであるから同原告等主張の本訴各債権は全部消滅したというのである。
三、理 由
被告会社が土木建築請負ならびに附帯業務を目的とする株式会社であつて国を代表する岡山農地事務局長との間に原告主張のような請負契約を締結したこと、原告A、同Bの両名が被告会社に雇傭せられていて昭和二十四年五月十八日当時までその従業員であつたこと被告会社が昭和二十四年五月十八日原告Aに対し労働基準法所定の三十日分以上の平均賃金すなわち予告手当を支払わないで即時解雇する旨通告したことはいづれも当事者間に争いがない。
原告本人Aの供述により成立を認める甲第一号証、第二号証の一、二ならびに右原告本人の供述を綜合すると被告会社は国を代表する岡山農地事務局長より請負つた前記児島湾干拓建設事業の防潮堤塘腹付工事を昭和二十三年三月一日より翌二十四年五月十八日まで実施し続いて翌十九日より同年六月三十日までは右工事に関しさきに農林省より借用した機械器具の返納作業を行つたのであるが原告等はいづれも昭和二十四年三月以前より被告会社に雇傭されていたその従業員であつていずれもその後右工事ならびに機械器具の返納作業に従事したものであることならびに被告会社は右昭和二十四年三月一日から同年六月三十日までの間に生じた分のうち別紙目録記載の本件各原告に対する当該原告名下賃金額欄記載の金額に相当する賃金の支払を怠つていることを認めるに十分であつて右認定を左右するに足る証拠はない。
つぎに原告等主張の各予告手当の請求ならびに原告A、同B、同Cの各退職金の請求を考察すると仮に原告等主張のように被告会社が昭和二十四年五月十八日原告等に対し労働基準法所定の三十日分以上の平均賃金を支払わないで即時解雇する旨の通告をしたとしてもかような予告手当を支払うことなくしてした即時解雇の意思表示は労働者の待遇に関する最低の基準に違反するものとして無効であるばかりでなく予告手当の支払は解雇の条件に過ぎないのであつてかゝる場合使用者としては法律上予告手当を支払うべき義務はないものと解するのを相当とするので原告等主張の解雇を前提とする叙上予告手当ならびに退職金の請求については爾余の点に対する判断をまつまでもなく主張自体いずれも失当たるを免れない。
被告会社の相殺に関する抗弁についてはその主張事実を認め得べき何等の証拠もないから右抗弁は採用し難い。
よつて原告等の本訴各請求は、被告会社に対し別紙目録記載の本件各原告に対しそれぞれ当該原告名下賃金額欄記載の未払賃金およびこれ等に対し本件訴状が被告会社に送達された日の翌日であること記録に徴し明白である昭和二十六年六月三十日より完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてのみ正当としてこれを認容すべくその余は失当としてこれを棄却し民事訴訟法第八十九条第九十二条本文第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 井上開了 菅納新太郎 富田善哉)
(別紙目録省略)